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ポスト・パンクとしての女装
2009年05月24日

人間というのは本当に「人類みな平等」な状態が好きなものらしく、そしてそれは多分正しい。

現状や結果として辿った道がどうであれ、パンク・ロックが「社会、特に社会における格差への不満と不安」を母胎として発生したものであるならば、少なくともいまや建前上はそれらはわりと解決している(というか、解決したことになっている)ので、本来的な目的で彼らが叫ぶ意味はなくなってしまった。もちろん、オリジナルではないパンクにとっては、もはや何の関係もない話なんだけど。
日本では、ここ数年になってワーキング・プアだとかまたいろいろ騒がれ始めたけど、実際のところはどうであれ「本人たちがもうちょっとがんばれば何とかなるんじゃない?」と思っている人は結構多いと思う。そう思うことが正しいかどうか、いいか悪いかはさておき。

21世紀を生きる我々の間にはもはや社会的格差というものは存在しておらず(しつこいようだけど、あくまでも「そういうことになっている」という意味ね。そういうことになっているからこそ、ワーキング・プアが問題になっているわけで)、我々はこれから真の意味での自由と平等を謳歌できる…はずだった。

ところが、私たちはまたも見つけてしまったのだ。自由でも平等でもないものを。
男女の性差だ。

男らしくしなさい、女らしくしなさい、と言われて、私たちは育ってきた。最近生まれた子はどうか知らないが、少なくとも昭和50年代生まれの私はそうだし、周囲の人達もそのようだった。

そう、まだ世の中には、こんなにも「均されていない土地」があったのだ。
しかも、周りがすでにおおかた均されてしまっているために、その均されていなさはやけに目立つ。
均したい、平等にしたい、自由になりたい。かつて父母が、祖父母が、何かを勝ち取ってそうしたように。

すべすべしたきれいな布地の艶やかな服を着て、ちやほやされたい、かわいがられたい、あるいは「男として求められるのではない強さ」を発揮してみたいと願う男の子。少女として生きるべきか、痴女として生きるべきか(女子の生き方は、いまだにこのどちらかしか許されていない部分があると思う※注1)の狭間でどちらも受け入れることができず、アイデンティティを崩壊させていく女の子.。そんな子供たちはすべからく、変わり者と罵られながら思春期を送る羽目になった。なんという不自由! なんという差別!

(そして、そんな「異端である自分」の受け入れ先を、SとかMとか変態とかいう別の基準に求めてしまう子は、結構多い気がする。現在のSMって、サディズムとかマゾヒズムとかいうオリジナルな意味よりもむしろ、性差による不自由さから逃れるための避難口としての機能のほうがより強いと思うんですよね。まぁ二元論どうしですから、つながるのは当たり前っちゃあ当たり前ですけどね)

かくして、かつてthe CLASHが左翼的なメッセージを叫んだのと同じ目をして、しかし、それよりはずっと静かなやり方で、彼ら・彼女らは異性装や、性的倒錯と言われるような異性を象徴する行為をあえてすることに走る。そうすることで、得体の知れない不自由が吹っ切れる気がするから。
それはSMと呼ばれるものにとてもよく似た行為だったので、彼らはそれをSMと呼んだけど、実際、共通する観念も多いし、そう捉えるのは間違っていない。

そんなわけで女装などのトランスベスティズム(実際に実行するのではない「心のトランスベスティズム」も含めて)は21世紀におけるパンクだと思うのです。もちろん昔から服装倒錯者はいたと思うけど、今のブームはちょっとすごいよネ! しかも若年層が多いよネ!

願わくば、彼ら・彼女らが、マイ・ウェイを歌いながら観客に向けて銃をぶっ放したシド・ヴィシャスのように、商業的アイコンとして消費されていきませんように。

なんてことを、こちらの雑誌の発売記念イベントにお邪魔した時にこっそり考えていました。↓
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%8E%E3%82%B3%E5%80%B6%E6%A5%BD%E9%83%A8/dp/4776904292


※注1:これは私の意見ではないです。どなたが仰っていたのですが(多分私とそう遠くない立ち位置にいる方)失念してしまいました…。もし「これ言ったの俺だよ!」とか「言った人知ってるよ!」という方がいらっしゃいましたら教えて下さい。失礼は重々承知でこのような中途半端な引用をさせていただいているのですが、異性装について語る際の出発点となり得るご意見かと思いましたので…。

※さらに注: 6~70年代イギリスと現代の日本を比べてどうするよというツッコミどころもあるかと思うのですが、さすがに20世紀後半ともなれば、先進諸国に蔓延する病理には共通点も多かろうということで。日本にも安保闘争とかあったしね!
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早川舞

Author:早川舞
 女王様と編集者の二足のわらじを経て、SM・フェティッシュ分野を得意とするライターに。

 共著『可笑しなヘンタイ図鑑』(宝島社)、『Girl’s Side Book』『Girl’s Side Dictionary』(池田書店)、オタクが腐女子に、さらに女王様になるまでを描いた自伝『女王様はオタクだった 腐った遺伝子』(大洋図書・電子書籍)等の著作がある他、北尾トロ氏責任編集『季刊レポ』(ランブリン)にてSMの歴史や女装をテーマにした記事を寄稿。SM専門誌・ウェブサイトでも活動。

 メンバー全員女王様ロックバンド「SEXLESS」なんてのもやってたり。


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